〔随 筆〕
乙種機械受験・Aさんの場合

 4月になって、職場の先輩が言いだした。自分が講師になるから有志を集めて乙機試験のための勉強会を始めようと。折角の機会である、やってみましょう。結局生徒3人、師を合わせて4人が集まった。

 検定試験の準備には間に合わないので、11月9日を目標として乙種機械を全科日受験する。法令は各自で勉強、学識と保安管理技術は「中級高圧ガス保安技術」をテキストにして師が教える。6月から週2回、各2時間として職場で勉強会が始まった。

 師は自費でホワイトボードを買ってきて、講義を進めた。20年以上前教わったボイル・シャルルの法則が懐かしい。過去問を集めてコピーする。本試験、検定試験それぞれ10回分以上入手できた。古い問題集は問題の下に解答がある。解答が見えると不都合なので紙を貼る。休日を使うが結構手間だ。ちらりと覗くが、単語の意味から設問の趣旨までまったく理解できない。(大丈夫か?)

 1月経ったら講義は終わり、過去問を解くと言う。手作りの解答用紙と解答一覧表を渡された。(わかっていないがいいのか?)案の定、間違えた問題をテキストで復習しようとしてもわからない。同志に聞くと、公式を適当に当てはめると解答が出るという。私は文系、そんな才能は持っていない。わからない部分が多すぎてどこから手をつけて良いかわからない。解答を読んで、とりあえずこんなものと自分を納得させる。

 「(問題を解き始めて)最後の方に電卓の音がするね。」と同志が言う。計算が苦手だから一番最後にしているんだよ。爆発限界とじょ限量は点取り問題というが、さっぱり頭に入らない。「今日はアセチレンの日。2.5〜100%。」と職場で唱える。笑われているが、気にしない。同志と掛け合い漫才まがいもする。「へンリーの法則は?」「高温、低圧で成り立つ。」「高温、低圧。コーオン、テーアツ。・・・」勉強会とは別に自習が必要だ。自宅は誘惑が多いので、勉強場所を探す。平日は職場のテーブル、休日は図書館にした。地下鉄の中では寝てしまう。

 2ケ月でコピーした過去間を1周した。とても合格圏にはない。「大丈夫?」「まだ2ケ月あるから間に合う。」師は言う。そう思うことにする。2周目は1日1回分として1週間で7回分を解く。間違えた問題をテキストで確認する。3人の中で、相変わらず私の点が一番低い。年齢の差は大きい、ことにする。わからないことは師に聞く。師に聞けないほど情けない質問は同志に頼る。一人だったら、とうの昔に挫折しているところだ。「仕事とカは違うの?」何でそんなこともわからないのか、という顔をされるがわからないものは仕方ない。つきあってもらいましょう。

 3周目以降は、1週間で10回分を解く。解答一覧表は、すぐ採点ができて便利だ。少しずつ問題を解くスピードが上がっている。けれど点数があまり出ない。「6割取れればいいんだから、低空飛行をねらう。」と自分に言い聞かせていたら、師があきれた顔をした。

 9月はお楽しみの海外旅行。しばらく勉強とはお別れ、やったね、と浮かれていると、お言葉がかかる。「旅行中も問題を解くこと。3日以上休んだら忘れて、元に戻すのが大変。」空港、飛行機、バスの中で解く。朝、5時に起きて解く。まだ、夜も明けていないのに何で異国の地でこんなことを、と思いながらも解く。しかし、頑張りすぎたようで、帰国した週は勉強する気力がなくなった。次の週で盛り返そう。

 法令を勉強する時間がない。いや、時間は作るもの。甲、乙、丙の過去5年分を入手して1回解いてみる。8割方はできた。覚えていない部分を表にして何度も読み直す。

 サージングとキャビテーションがわからない。必出問題だから落とせない。師に何度も聞くが理解できない。「問題の種類はそれほど多くないですよ。」と同志が問題を抜き出した表をくれた。感謝しつつ地下鉄の中で読む。

 9月下旬頃から学識・保安管理技術と合わせて1時間で解答・採点・復習ができるし、点数も13〜15点取れるようになった。計算問題も後回しせず解けるようになった。でも、3人の中で1番点が低いことに変わりない。1日2回分を目指して解いていく。法令ももう1周解きたい。こちらは、空いている時間があれば1問でも解くことにした。

 「最終週はできたら国家試験を2周解くと良い、できれば3周。」師の激励のお言葉。会場の下見も必要とのこと。当日持って行く筆記具などのリストを作ってくれた。ここまでしてもらって不合格では申し訳ない。連休を利用してひたすら問題を解く。テキストを読む。紙に書く。最終週の金曜日は休みを取った。苦手な分野に集中して頭に押し込もう。

 結局、法令は甲乙丙5年分を2周、保安管理技術と学識はそれぞれ本試験10年分を6周、検定試験11回分を5周解いたことになった。

 当日、試験開始1時間前に到着するよう家を出る。地下鉄の中に同じ目的とおぼしき人が大勢いる。地上に出た所で方向がわからない人もいる。下見をして良かった。休憩時間中に勉強できる場所を確認する。

 法令、過去問よりひねってあるが、まず大丈夫。保安管理技術、勉強したことのない分野もあったがまあ大丈夫。持参した昼食をとりながら学識のおさらいをする。終わった問題の確認はしない。次の問題の準備が先だ。(これも師の教え)隣の人、大きな声でさっきの問題は正しいとか言わないでくださいよ。気になるから。学識、見たことのない問題が4問あった。これは痛い。15問中、間違えて良いのは6問。先の4問全てが違っていたとしてあと2問しかない。2問程度知らない問題が出るのは覚悟していたが、4問とは。とりあえず、できそうな問題から手をつける。数値の単位、薄肉・厚肉の違いなど、読み間違いの無いよう慎重に読む。計算間違いの無いよう何度も再計算する。残った問題を考える。周りの人が少なくなったが気にしない、考える。ついにあきらめて答案用紙を提出する。これはだめかもしれない、重い気持ちで帰宅した。

 翌日、10時に解答が発表される。採点した。全問題50間中、46問正答していた。マークミスがない限り合格だ。師も喜んでくれた。「執念の勝利。」と。

 翌年1月7日、10時にKHKのホームページを見る。3人とも受験番号があった。「今年は甲種機械ですね。」同志は元気だ。